給与明細を開いても、去年とほとんど同じ数字が並んでいる。ニュースでは賃上げの話ばかり流れているのに、自分の口座には反映されていない。20代で最も静かに効いてくるお金の悩みが、この「上がらない」感覚です。

先に結論を書きます。20代の賃金は、統計の平均では確かに上がっています。ただし上がり方は勤め先と制度で大きく割れ、手取りへの反映は半年から1年遅れます。だから「上がっていない」という体感は、多くの場合ただの気のせいではありません。

この記事では、その体感の内訳を3つに分解し、いま自分が動かせるレバーを順番に決めるところまで進みます。


まず事実確認|20代の賃金は統計上どう動いているか

最初に、自分の感覚と全体の数字を突き合わせておきます。ここを飛ばすと、自分だけが取り残されているのか、全体がそうなのかが判断できません。

厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」による、年齢階級別の賃金は次のとおりです。ここでいう賃金とは、調査年6月分の所定内給与額の平均です。残業手当・深夜手当・休日出勤手当などは含まれず、賞与も含まれません。税や社会保険料を引く前の金額です。

年齢階級 賃金(男女計・月額) 対前年増減率 20〜24歳を100としたとき
20〜24歳 23万2,500円 3.5% 100.0
25〜29歳 26万7,200円 3.4% 114.9
30〜34歳 29万9,500円 4.7% 128.8
年齢計 33万400円 3.8% 142.1

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20代前半から後半にかけて、平均では約15%上がっています。年ごとの伸びも3%台です。国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」でも、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は478万円でした。前年から3.9%増えています。

つまり、世の中の平均は動いています。それでも自分の明細が動いていないなら、平均から外れる理由がどこかにあるということです。

※この章の数値は 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」/国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」より


「上がっていない」と感じる3つの理由

体感と統計のずれは、だいたい次の3つのどれかで説明がつきます。自分がどれに当たるかを先に特定してください。当たっている場所が違えば、打つ手も変わります。

理由1|昇給が「自動」ではなくなっている

「毎年少しずつは上がるもの」という前提は、いまの制度実態とはずれています。

厚生労働省の「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、定期昇給制度がある企業の割合は81.2%です。ここまでは多数派です。ところが、その定期昇給の内容を見ると様子が変わります。

  • 自動昇給:27.5%
  • その他(業績評価など):72.4%

※複数回答のため合計は100%を超えます。

制度としての定期昇給はあっても、中身が評価連動である会社のほうが多いのが実態です。評価が標準どまりなら、制度があっても上がり幅は小さくなります。「制度があるのに上がらない」は矛盾ではありません。

また、定期昇給制度が無い企業も17.7%あります。この場合、賃上げは会社の判断による改定に依存します。自分の会社がどちらなのかは、就業規則か賃金規程を見れば書いてあります。

理由2|改定額は会社の規模と業界で倍近く違う

同じ年に、同じ国で働いていても、賃上げの額は勤め先によってまるで違います。

令和7年に賃金の改定を実施した、または予定している企業などを対象にした集計を見ます。1人平均賃金の改定額は13,601円、改定率は4.4%でした。前年は11,961円・4.1%です。ただし、この平均の内訳は次のように割れています。

区分 1人平均賃金の改定額 改定率
5,000人以上 16,784円 5.1%
1,000〜4,999人 15,859円 5.0%
300〜999人 12,308円 4.0%
100〜299人 10,264円 3.6%

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業界による差は、規模の差よりさらに大きくなります。

産業 1人平均賃金の改定額 改定率
建設業 20,724円 5.9%
製造業 15,952円 5.2%
情報通信業 14,096円 3.9%
卸売業、小売業 12,183円 4.2%
宿泊業、飲食サービス業 10,177円 3.6%
医療、福祉 5,589円 2.3%

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建設業と医療・福祉では、改定額に3倍以上の開きがあります。労働組合の有無でも差が出ており、組合ありは15,229円(4.8%)、組合なしは11,980円(4.0%)でした。

ここが重要な点です。あなたの昇給額は、あなたの働きぶりだけで決まっているわけではありません。同じ努力量でも、置かれている場所によって結果の数字は変わります。自分を責める前に、まず自分がどの列にいるのかを確認してください。

※この章の数値は 厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」より

理由3|額面が上がっても、手取りは遅れて追いかけてくる

3つ目が、いちばん体感を裏切る要素です。額面が上がっても、その分がそのまま口座に入るわけではありません。

厚生年金保険料は、給与そのものではなく標準報酬月額という等級に当てはめて計算されます。日本年金機構の説明によれば、標準報酬月額は1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32段階に区分されています。保険料率は18.3%で固定されており、事業主と本人が半分ずつ負担します。

そして、この等級は毎年9月に見直されます。4月から6月の報酬月額をもとに決め直す仕組みで、これを定時決定といいます。決まった等級は、9月から翌年8月までの各月に適用されます。

昇給などで固定的な賃金が大きく動いたときは、定時決定を待たずに改定されることもあります。変動後の報酬を初めて受けた月から4か月目に、標準報酬月額が2等級以上変わっていれば随時改定の対象になります。

住民税はさらに遅れます。前年の所得に対して計算され、翌年6月から翌々年5月にかけて引かれます。仕組みの詳細は「社会人2年目に手取りが減る理由」で条文まで追って整理しました。

整理すると、こうなります。

増えるもの 反映のタイミング
額面(基本給) 昇給した月から
社会保険料 9月の定時決定から(大きな変動時は4か月目から)
住民税 翌年6月から

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額面が上がった年は、その効果を先に体感し、コストを後から体感します。だから「上がったはずなのに増えていない」が起きます。特に社会人2年目から3年目は、昇給と住民税の開始が重なるため、手取りがほとんど動かないように見えることがあります。

※この章の数値は 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」「随時改定(月額変更届)」より


定期昇給とベースアップの違いを1分で

言葉が混ざっていると、自分の会社で何が起きたのかを判断できません。ここだけ切り分けておきます。

定期昇給 ベースアップ
何が動くか 賃金表の中の自分の位置 賃金表そのもの
誰が上がるか 対象となる本人 対象者全体
物価が上がったとき 実質の購買力は増えないことがある 底上げ分だけ実質も動きうる
ニュースの「賃上げ◯%」 含まれることが多い 含まれる

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報道される賃上げ率は、この2つを合わせた数字であることが少なくありません。「今年はうちも◯%の賃上げ」と聞いても、その中身が定期昇給だけのことがあります。その場合は、社内の序列が1つ進んだだけです。

自分の会社がどちらをいくら実施したのかは、労働組合があれば妥結内容の通知で確認できます。組合が無ければ、給与規程の改定通知や社内アナウンスに書かれています。分からなければ人事に聞いて問題ありません。金額の交渉ではなく、制度の確認だからです。


いま自分に効くレバーを順番に決める

原因が分かったら、次は順番です。全部同時にやろうとすると、たいてい何も進みません。上から順に、手前のものほど費用も心理的な負担も小さくなっています。

ステップ1|給与明細と等級制度を読む(今週)

最初にやるのは、交渉でも転職でもなく、確認です。次の3点を紙かメモに書き出してください。

  1. 去年と今年の額面の差(基本給と手当を分ける)
  2. 去年と今年の控除の差(社会保険料・住民税・所得税)
  3. 自分の等級と、次の等級に上がる条件

3番目が書いてある場所は、就業規則・賃金規程・等級定義書のいずれかです。社内ポータルに掲載されていることが多く、見当たらなければ人事や上司に聞けば確認できます。

ここまでやると、「上がっていない」が額面の問題なのか、控除の問題なのかが分かれます。控除側の問題なら、交渉しても解決しません。逆に額面側なら、次のステップに意味が出てきます。

ステップ2|社内で上げる余地を確かめる(1〜3か月)

社内で動かせる余地は、たいてい次の3つです。

  • 評価の基準を先に聞く:評価が終わってから理由を聞くのではなく、期の初めに「何がどうなっていれば上位評価なのか」を確認する
  • 等級要件から逆算する:次の等級の要件を満たす仕事を、いまの担当範囲の中で引き取る
  • 資格手当・職務手当を確認する:基本給を動かすより早く効く場合がある

給与そのものの話をするのが怖い、という感覚は珍しくありません。この怖さの正体と、話し方の準備は「給与交渉が怖い20代へ」でまとめています。

なお、社内で伸びしろが見えないと感じるとき、それが本当に制度の限界なのか、いまの時期の停滞なのかは切り分けが要ります。判断の材料は「キャリアの踊り場で成長が止まった気がする」が参考になります。

ステップ3|転職で上げる(3〜6か月)

理由2で見たとおり、勤め先の規模や業界そのものが改定額を左右します。ここを変えるのが転職です。ただし、確実に上がるわけではありません。

厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」による、転職入職者の賃金変動状況は次のとおりです。

前職と比べた賃金 割合
増加 40.5%
うち1割以上の増加 29.4%
変わらない 28.4%
減少 29.4%
うち1割以上の減少 21.7%

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増加が減少を11.1ポイント上回っています。前年と比べても、増加した人の割合は3.3ポイント上昇しました。数字の向きとしては追い風です。

一方で、約3割は前職より下がっています。1割以上下がった人も21.7%います。転職を年収アップの手段として考えるなら、下がる可能性を織り込んだうえで生活費の設計を先にしておくのが安全です。

転職そのものを判断する軸は「20代の転職判断基準」に6つの観点で整理しました。年収だけを軸にすると、入社後の消耗で結局続かないことがあります。

※この章の数値は 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」より

ステップ4|給与以外の収入を足す(半年〜)

給与が動かない期間を、副業で埋める選択肢もあります。ただし、これは最後に置くべきレバーです。時間の消費が最も大きく、体力を削るからです。

「やらないと不安」という理由だけで始めると続きません。必要かどうかの見極め方は「副業しないと不安な20代へ」で整理しています。


収入が動かない期間に、支出側でできること

昇給は自分の意思だけでは動きません。動かせるまでの期間、家計側で先に手を打っておくと、焦りの総量が減ります。

1. 手取りベースで生活費を組み直す

額面ではなく手取りで設計しないと、9月と6月に必ずずれます。手取り額ごとのモデルは「手取り別・一人暮らし生活費の目安」にまとめています。

2. 昇給分を「先に無かったこと」にする

昇給した月に積立額を同額だけ増やすと、生活水準が上がる前に差分が貯蓄へ回ります。手取りが増えてから考えると、たいてい生活費が先に膨らみます。

3. 貯まらない原因が収入なのか仕組みなのかを分ける

収入が上がっても貯まらない人はいます。原因が仕組み側にあるなら、昇給しても同じことが起きます。切り分けは「20代で貯金できない本当の理由」を参照してください。


よくある質問

20代の給料は、実際のところ上がっているのですか?

統計の平均で見れば上がっています。厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査では、所定内給与額の平均は20〜24歳が23万2,500円、25〜29歳が26万7,200円でした。前年からも、それぞれ3.5%、3.4%増えています。ただしこれは全国平均です。勤め先の規模・業界・制度によって、実際の上がり方は大きく違います。

定期昇給とベースアップは何が違うのですか?

定期昇給は、その会社の賃金表の中で自分の位置が上がることによる増加です。ベースアップは賃金表そのものを書き換えて全体を底上げすることです。定期昇給だけの年は、社内の序列が1つ上がっただけで、物価が上がっていれば実質的な購買力は増えないこともあります。

定期昇給があれば毎年自動的に上がりますか?

自動とは限りません。厚生労働省の令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査によると、定期昇給制度がある企業のうち、その内容が「自動昇給」である割合は27.5%、「その他(業績評価など)」が72.4%です(複数回答)。制度はあっても、評価によって上がり幅が変わる会社のほうが多数派です。

昇給したのに手取りが増えないのはなぜですか?

社会保険料と住民税が、額面より遅れて追いかけてくるためです。厚生年金保険料は標準報酬月額という等級に当てはめて決まり、毎年9月に4月から6月の報酬をもとに見直されます。住民税は前年の所得に対して翌年6月から引かれます。額面が増えた年の翌年は、控除も増えるのが通常です。

転職すれば給料は上がりますか?

上がる人のほうが多いものの、全員ではありません。厚生労働省の令和6年雇用動向調査では、転職入職者のうち前職より賃金が増加した人は40.5%、減少した人は29.4%、変わらない人は28.4%でした。1割以上減った人も21.7%います。上がる前提で生活費を先に増やさないことが安全です。

まとめ

  • 20代の賃金は統計の平均では上がっている。20〜24歳が23万2,500円、25〜29歳が26万7,200円で、前年からもそれぞれ3.5%、3.4%増(所定内給与額・男女計)
  • それでも体感が動かない理由は3つ。昇給が評価連動になっていること、勤め先の規模と業界で改定額が倍以上開くこと、控除が遅れて増えること
  • 定期昇給制度がある企業は81.2%だが、その内容は「業績評価など」が72.4%(複数回答)。制度があっても自動ではない
  • 1人平均賃金の改定額は5,000人以上で16,784円、100〜299人で10,264円。産業別では建設業20,724円、医療・福祉5,589円と差が大きい
  • 額面が増えても、社会保険料は9月の定時決定から、住民税は翌年6月から追いかけてくる
  • 転職で賃金が増加した人は40.5%、減少した人は29.4%。上がる確率のほうが高いが、確実ではない
  • 順番は、明細と等級の確認 → 社内で上げる → 転職 → 収入源を足す。手前ほど費用も負担も小さい

給料が上がらない状態がつらいのは、金額そのものより「自分の努力がどこにも接続していない気がする」ことのほうかもしれません。ただ、上の数字が示しているのは、結果の一部は最初から自分の外側で決まっているという事実です。

外側の要因を自分の能力の問題として引き受けてしまうと、打ち手を間違えます。まずは明細を開いて、額面と控除のどちらが動いていないのかを見るところから始めてください。そこが決まれば、次の一手は自然に1つに絞られます。

制度の詳細や自分のケースの判断については、勤め先の人事・給与担当や、社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーなどの専門家に確認すると確実です。


参考


著者について

20代の孤独・お金・キャリアの悩みを扱うブログ「20代の悩み(lonely20s)」の編集部。公的機関の統計・法令をもとに、20代の等身大の問いに向き合う記事を書いています。断定や投資推奨は行わず、読者が自分で判断できる情報整理を方針としています。

最終更新日:2026年8月31日

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の労務・税務相談に対する助言ではありません。 ※統計の数値は調査時点のものです。賃金の改定額・改定率は企業ベースの集計であり、個人の昇給額を保証するものではありません。 ※制度の詳細や最新の内容は、厚生労働省・国税庁・日本年金機構の公式情報および勤め先の就業規則をご確認ください。

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