「もう休まないと無理かもしれない」。そう思ったとき、次に浮かぶのは「休んだら生活費はどうなるんだろう」という不安ではないでしょうか。
お金の見通しが立たないせいで、休む決断を先延ばしにしてしまう人は少なくありません。この記事では、会社員が病気やケガで休んだときに使える傷病手当金を取り上げます。条件・金額・期間を、協会けんぽの案内と法律の条文で確かめながら整理します。
休職中の給料は「会社しだい」
まず知っておきたいのは、休職そのものは法律で決まった制度ではないということです。
厚生労働省のモデル就業規則は、休職を次のように説明しています。
業務外での疾病等主に労働者側の個人的事情により相当長期間にわたり就労を期待し得ない場合に、労働者としての身分を保有したまま一定期間就労義務を免除する特別な扱い
そのうえで、「休職の定義、休職期間の制限、復職等については、労基法に定めはありません」と書いています。
つまり、次のことはすべて会社ごとの就業規則で決まります。
- 何か月まで休職できるか
- 休職中に給与が出るか
- 休職期間が終わっても復職できないときにどうなるか
モデル就業規則の規程例には、休職期間が満了しても就業が難しい場合は「休職期間の満了をもって退職とする」という条文があります。自分の会社にも似た条文があるかどうかは、休む前に一度確かめておくと安心です。
※この章の内容は 厚生労働省「モデル就業規則」 より
給与が出ない間を支えるのが傷病手当金
休職中に給与が出ない、または減るときに生活を支えるのが、健康保険の傷病手当金です。
協会けんぽは、傷病手当金を「病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度」と説明しています。会社の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に加入している人が対象です。
対象から外れるのは、仕事中や通勤中のケガ・病気(労災保険の対象)や、美容整形のように病気と見なされないものです。心の不調による休業かどうかで分けられているわけではありません。
※この章の内容は 協会けんぽ「傷病手当金」 より
もらえる4つの条件
協会けんぽの案内では、次の4つをすべて満たす必要があります。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| ① 業務外の病気やケガの療養のための休業 | 自宅療養も対象。自費診療でも、仕事に就けないことの証明があれば対象 |
| ② 仕事に就くことができない | 医師などの意見をもとに、その人の仕事の内容を考えて判断される |
| ③ 連続3日間を含み4日以上休んだ | 最初の連続3日間(待期)のあと、4日目以降が支給の対象 |
| ④ 休んだ期間に給与が出ていない | 給与が出ていても傷病手当金より少なければ、差額が支給される |
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見落としやすいのは③の待期です。
- 待期の3日間には、有給休暇や土日・祝日も含まれます。
- 2日休んで3日目に出勤すると、待期は成立しません。3日連続で休むことが条件です。
②は自分で決めるものではありません。まず受診して、仕事に就けない状態かどうかを診てもらうことが出発点になります。
※この章の内容は 協会けんぽ「傷病手当金」 より
1日いくらになるのか
金額の計算は、次の3段階です。
- 支給開始日以前の、継続した12か月間の標準報酬月額を平均する
- その平均額を30で割る(10円未満は四捨五入)
- その3分の2が、1日あたりの支給額(1円未満は四捨五入)
協会けんぽが示している例では、12か月の平均が17万円の人の場合、1日あたりの支給額は3,780円です。
標準報酬月額は、毎月の給与を区切りのよい額に当てはめたもので、健康保険料の計算に使われている額です。ざっくり言えば「ふだんの月給のおよそ3分の2が、日割りで出る」と考えると見通しが立てやすくなります。
たとえば平均が20万円の人なら、20万円÷30=6,670円(10円未満四捨五入)です。その3分の2で、1日あたり4,447円になります。30日分でおよそ13万3,000円です。
今の健康保険に加入して12か月たっていない人(新卒1年目など)は、計算が少し変わります。次のうち低いほうの額を使います。
- 入社してからの各月の標準報酬月額の平均
- 協会けんぽ全体の平均額(支給開始日が令和7年4月1日以降の人は32万円)
新卒1年目で給与がこの額を下回っていれば、自分の給与の平均が使われます。
※この章の数値は 協会けんぽ「傷病手当金」 より(平均20万円の例は、同ページの計算方法にあてはめた計算値)
もらえる期間は通算1年6か月
支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月です。
「通算」なので、途中でいったん復職して支給がなかった期間は数えません。
1年6か月という長さは、「焦って戻らなくても、制度としては回復を待てる時間がある」ということでもあります。休職できる期間そのものは会社の就業規則で決まるので、2つの期限を並べて確認しておくと、計画が立てやすくなります。
※この章の内容は 協会けんぽ「傷病手当金」 より
入社1年目・転職直後に辞めるときの注意
20代にとっていちばん大事な注意点がここです。
休職中にそのまま退職しても、条件を満たせば退職後も傷病手当金を受け取り続けられます。条件は次の2つです。
- 退職日までに、被保険者期間が継続して1年以上あること(前の会社の健康保険の期間も、空白が無ければ数えます。任意継続・国民健康保険・共済組合の期間は除きます)
- 退職日の時点で、傷病手当金を受けているか、受けられる状態にあること
健康保険法104条も同じ内容です。資格を失った日の前日まで引き続き1年以上被保険者だった人は、同じ保険者から継続して給付を受けられると定めています。
つまり、健康保険に続けて加入している期間が1年に満たないまま退職すると、退職後の分は受け取れません。新卒1年目はこれに当たります。転職して間もない人は、前の会社から空白なく加入していたかで結論が変わるので、辞める日を決める前に、加入している協会けんぽの支部や健康保険組合でこの条件を確かめてください。
もう1つ注意があります。協会けんぽによると、退職後にいったん仕事に就ける状態になると、その後また就けなくなっても傷病手当金は支給されません。退職後の継続給付は、途切れずに続いていることが前提です。
退職したあとの保険・年金・税金の切り替えは、退職後の手続きチェックリストにまとめています。
※この章の内容は 協会けんぽ「傷病手当金」/健康保険法 第104条 より
税金はかからないが、出ていくお金は続く
傷病手当金そのものに税金はかかりません。健康保険法62条は「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない」と定めています。
一方で、休職中も支払いが止まらないものがあります。
- 健康保険・厚生年金の保険料:日本年金機構が案内している保険料の免除は、産前産後休業と育児休業の期間です。病気による休職は、この免除に含まれていません。給与が出ない間の払い方は会社によって違うので、人事に確認しておきましょう。
- 住民税:住民税は前年の所得にかかる税なので、休んで収入が減っても今年度分の請求は続きます。仕組みは社会人2年目に手取りが減る理由で詳しく書いています。
傷病手当金は月給のおよそ3分の2で、保険料と住民税は続きます。この差を埋める分として、手元の貯金が何か月もつかを一度数えておくと、休むことへの不安がかなり具体的になります。貯金の備え方は緊急予備費の作り方も参考になります。
※この章の内容は 健康保険法 第62条/日本年金機構「保険料の免除等(産休・育休関係)」 より
申請の流れ
大まかな流れは次のとおりです。
- 受診する:仕事に就けない状態かどうかを医師に診てもらう
- 会社に相談する:休職の手続きと、就業規則の休職期間・給与の扱いを確認する
- 申請書を用意する:協会けんぽの場合は「健康保険傷病手当金支給申請書」
- 提出する:協会けんぽの場合は、加入している都道府県支部へ。健康保険組合に加入している人は、その組合に確認する
会社経由で出すか自分で出すかは、職場によって運用が違います。人事や総務に聞くのがいちばん早い方法です。
※この章の内容は 協会けんぽ「傷病手当金」 より
休むことを「お金」で先延ばしにしないために
つらさを抱えたまま働き続ける理由が「休んだら生活できない」なら、その不安は数字にすると少し小さくなります。
- 給与が出なくても、条件を満たせば月給のおよそ3分の2が出る
- 期間は通算1年6か月
- 税金はかからない。ただし保険料と住民税は続く
- 健康保険の加入が続けて1年未満のまま辞めると、退職後の分は出ない
「会社に行きたくない」気持ちの整理や受診の目安は、会社に行きたくない20代へにまとめています。燃え尽きのサインは20代のバーンアウトのサイン7つが参考になります。
ひとりで抱えるのがしんどいときは、相談窓口も使えます。厚生労働省のポータルサイト「こころの耳」には、電話・SNS・メールの窓口があります。
よくある質問
休職中は給料が出ないのですか?
傷病手当金は1日いくらもらえますか?
傷病手当金はいつまでもらえますか?
入社1年目でも傷病手当金はもらえますか?
傷病手当金に税金はかかりますか?
まとめ
- 休職は法律で決まった制度ではなく、期間や給与の扱いは会社の就業規則で決まる
- 給与が出ない間は、健康保険の傷病手当金で生活を支えられる
- 条件は4つ。とくに「連続3日間の待期」を見落とさない
- 1日あたりの額は、標準報酬月額の平均÷30×3分の2。期間は通算1年6か月
- 健康保険の加入が続けて1年未満のまま辞めると、退職後の分は出ない
- 傷病手当金は非課税だが、保険料と住民税の支払いは続く
休むかどうかは、体と心の状態で決めるものです。お金の心配は、そのあとで仕組みを使って小さくできます。
体調のことは医師に、休職や給与の扱いは勤務先の人事・総務に、傷病手当金の細かな要件は加入している協会けんぽの支部や健康保険組合に相談してください。自分のケースで判断に迷うときは、社会保険労務士などの専門家に相談すると確実です。
参考
- 協会けんぽ「傷病手当金」
- 厚生労働省「モデル就業規則について」(モデル就業規則 第9条 休職 とその解説)
- e-Gov法令検索「健康保険法(大正十一年法律第七十号)」(第62条、第104条)
- 日本年金機構「保険料の免除等(産休・育休関係)」
- 厚生労働省「こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の医療・労務・社会保険の相談に対する助言ではありません。 ※支給の可否や金額は、加入している健康保険・勤務先の就業規則・個々の状況によって異なります。正確な内容は協会けんぽの支部・健康保険組合・勤務先でご確認ください。 ※制度の内容は2026年9月29日時点で公式サイトで確認したものです。最新の情報は各公式サイトをご確認ください。
