奨学金を返しながら、「貯金やNISAを始めていいのか」「ボーナスで繰り上げたほうがいいのか」と迷っている20代に向けた記事です。

先に結論を書きます。判断の起点は、気分ではなく「自分の奨学金の利率」と「生活費の予備があるか」の2つです。この2つが分かれば、優先順位はほぼ自分で決められます。

この記事で分かること:

  • 自分の利率の調べ方と、利率ごとに総利息がどれくらい変わるか(試算つき)
  • 繰上返還の仕組み(手数料・利子・期間)と、使うタイミングの考え方
  • 苦しくなったときの減額返還・返還期限猶予の基準と、延滞した場合に起きること

※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品や投資行動を勧めるものではありません。


最初にやること|自分の「利率」と「残り」を確認する

奨学金の話が堂々巡りになる一番の原因は、自分の条件を数字で知らないまま一般論を読んでいることです。先に次の4つを確認します。

確認すること どこで分かるか なぜ必要か
第一種か第二種か 貸与奨学金返還確認票・スカラネット・パーソナル 第一種は無利子、第二種は利子がある
利率と算定方式 同上 繰り上げの効果がここで決まる
残りの返還額と回数 同上 「あと何年か」が見えると判断が落ち着く
毎月の返還額と引き落とし日 同上・通帳 家計の固定費として扱うため

横にスクロールできます

第二種奨学金の利率には、JASSOの案内で年3.0%の上限があり、在学中は利子がかかりません。算定方式は2つあります。

  • 利率固定方式:貸与終了時に決まった利率が、返し終わるまで変わらない
  • 利率見直し方式:貸与終了時に決まった利率を、おおむね5年ごとに見直す

見直し方式を選んでいる人は、今の利率が数年後も同じとは限らない点を頭に置いておくと、後で慌てずに済みます。

※この章の制度内容は JASSO「第二種奨学金の利子と利率の算定方法」より


利率の違いで、返す総額はどれくらい変わるのか

「利率が低いから気にしなくていい」と言われても、実感が湧かないと思います。そこで架空の条件で計算してみます。

試算の前提(架空のモデル):第二種で240万円を借り、元利均等で15年(180回)で返す場合。実際の返還回数や月額は、借りた額と契約によって異なります。

利率(年) 毎月の返還額 総返還額 うち利息
0%(第一種・無利子) 約13,333円 240万円 0円
0.5% 約13,842円 約249万円 約9.2万円
1.0% 約14,364円 約259万円 約18.5万円
2.0% 約15,444円 約278万円 約38.0万円
3.0%(上限) 約16,574円 約298万円 約58.3万円

横にスクロールできます

この表から分かるのは2つです。

  1. 利率1%前後までなら、15年間の利息は20万円に届かない。月に直すと1,000円前後の差です。
  2. 利率が2〜3%だと、利息は40〜60万円規模になり、繰り上げを検討する意味が大きくなる。

「奨学金=重い借金」という感覚は、実際の利息の大きさとずれていることがあります。数字で見ると、焦りが少し現実的なサイズに戻ります。


繰上返還の仕組み|手数料・利子・期間

JASSOの奨学金は、返還期日が来ていない分を前倒しで返す繰上返還ができます。JASSOの案内で確認できるポイントは次のとおりです。

  • 全額でも一部でも繰り上げられる
  • 登録済みの振替口座からの振替なら手数料はかからない(払込票の場合は払込手数料が別途かかる)
  • 第二種奨学金は、繰り上げた期間の利子がかからない(据置期間の利子はかかる)
  • 一部を繰り上げた場合、その分だけ返還期間が短くなる(毎月の額が下がるのではない)

最後の点は見落としやすいところです。繰り上げても月々の引き落とし額は変わらないので、「毎月が苦しいから繰り上げる」は目的と手段が合っていません。毎月が苦しいなら、後で書く減額返還の領域です。

繰り上げの効果を試算で見る

先ほどと同じ240万円・利率1.0%・15年のモデルで、3年目の終わりに30万円を一部繰り上げた場合を計算すると、次のようになります(架空の試算)。

  • 返還期間:180回 → 約157回(約2年短縮)
  • 総利息:約18.5万円 → 約15.0万円(約3.5万円の減少)

30万円を前倒しして減る利息は約3.5万円です。これを「大きい」と感じるか「思ったより小さい」と感じるかが、そのまま自分の判断材料になります。利率が2〜3%ならこの差は大きくなり、0.5%ならさらに小さくなります。

※この章の制度内容は JASSO「繰上返還申込み」より


返済・貯金・NISAの優先順位をどう決めるか

ここからは一般論ではなく、順番のつけ方として整理します。どれを選ぶかは家計の状況によって変わり、正解は1つではありません。

ステップ1:毎月の返還を「固定費」として確保する

最初にやるべきは、繰り上げでも投資でもなく、毎月の引き落としを確実に通すことです。引き落とし日の前に残高が足りなくなる月があるなら、それを解消するのが先です。

家計の組み方は「20代の家計の分け方|手取りから予算を組み直す4ステップ」で、奨学金を固定費に入れた配分例を載せています。

ステップ2:生活費の予備を持つ

次に、急な出費に耐えるための予備です。予備がないまま繰り上げると、次の急な出費でクレジットカードの分割払いなどに頼ることになり、奨学金より高い利率の借入に置き換わるおそれがあります。

予備の作り方は「緊急予備費の作り方」で詳しく扱っています。

ステップ3:余った分を「繰り上げ」と「それ以外」に分ける

予備ができて初めて、繰り上げ・貯金・投資の比較になります。比べるときの軸は次の3つです。

比べる軸 繰上返還 積立投資(NISAなど)
効果の確実さ 減る利息は契約で決まっている 元本保証がなく、結果は相場しだい
お金の使いやすさ 一度返すと戻ってこない 売却すれば現金化できる(損失の可能性あり)
気持ちの面 残高が減る安心感がある 長期で続けられるかが課題になる

横にスクロールできます

利率が低い人ほど、繰り上げで減る利息は小さい。一方で、投資は利息分を上回る保証がありません。この「確実に小さく減るもの」と「不確実なもの」をどう組み合わせるかは、性格と家計の余裕で変わります。

NISAの仕組みそのものは「20代のNISA入門」にまとめています。迷いが大きい場合は、ファイナンシャルプランナーや自治体の無料相談を使うのも手です。

判断の目安(例)

  • 利率0〜1%前後で、予備もある:繰り上げを急ぐ理由は小さい。貯金や積立との配分を考える余地がある
  • 利率2〜3%で、予備もある:ボーナスなどまとまったお金の一部を繰り上げる効果が比較的大きい
  • 予備がない:利率に関係なく、まず予備づくりを優先する
  • 「借金がある」ストレスで生活に支障が出ている:数字上の損得より、残高を減らす安心を優先する選び方もある

返済が苦しくなったときの制度|延滞する前に使う

収入が下がった、体調を崩した。そういうときに一番避けたいのは、連絡をせずに引き落としが止まることです。JASSOには、延滞する前に使える制度があります。

減額返還制度|月々の返還額を減らす

  • 月々の返還額を2分の1・3分の1・4分の1・3分の2に減らし、その分だけ返還期間を延ばす
  • 1回の願い出で12か月まで、延長して通算15年(180か月)まで
  • 返還予定総額は減らない。第二種の利子の総支払額も変わらない
  • 収入の目安(給与所得者):年間収入金額400万円以下(扶養する子どもが2人なら500万円以下、3人以上なら600万円以下)

返還期限猶予|一定期間、返還を先送りする

  • 返還期限を一定期間先送りする制度で、元金や利子が免除されるわけではない
  • 経済困難を理由とする一般猶予の目安(給与所得者):年間収入金額(税込)300万円以下(令和7年11月以前に卒業・退学した人が対象)
  • 令和7年12月以降に卒業・退学した人は、無職・未就職などで収入が低い場合に「新卒等」の事由で申請し、その期間は収入証明書などの提出が不要
  • 経済困難の場合は1年ごとに願い出る必要があり、取得年数に制限のある他の事由と通算して10年が限度

どちらを使えるか、どちらが合うかは状況によって違います。月の負担を少し下げれば続けられるなら減額返還、しばらく払うこと自体が難しいなら猶予、というのが大まかな考え方です。

延滞するとどうなるか

JASSOの案内では、延滞が3か月以上になると個人信用情報機関に登録されます。登録されると、スマートフォンの分割払いやクレジットカードが使えなくなったり、住宅ローンなどが組めなくなったりする場合があります。

制度は「苦しくなってから探す」より、余裕のあるうちに存在だけ知っておくほうが、いざというとき早く動けます。

※この章の制度内容は JASSO「減額返還制度の概要」/「減額返還制度の収入・所得金額の目安」/「返還期限猶予」/「経済困難(一般猶予の申請事由)」/「新卒等(一般猶予の申請事由)」/「個人信用情報機関への登録」より


見落としがちな選択肢|会社による代理返還

もう1つ、20代で知っておくと得をしやすいのが企業等の奨学金返還支援(代理返還)です。

JASSOの説明では、企業等が奨学金の返還残額の一部または全額を、従業員に代わってJASSOへ直接送金する制度で、導入している企業等はJASSOのサイトで「地域」「業種」「企業等名」から検索できます。

  • 今の勤務先に制度がないか、人事や就業規則で確認する
  • 転職を考えているなら、求人を比べる条件の1つに入れる

自分の返し方を工夫するだけでなく、誰が返すかという選択肢もあることは覚えておいて損はありません。

※この章の制度内容は JASSO「企業等の奨学金返還支援(代理返還)制度」より


「奨学金がある自分」を責めなくていい

奨学金を借りていない友人と比べて、「スタートで遅れた」と感じることがあるかもしれません。

でも、ここまで見てきたとおり、奨学金は利率・残高・使える制度がすべて数字で確認できる借入です。怖さの多くは、中身が見えていないことから来ています。

利率を確認する。予備をつくる。苦しいときの制度を知っておく。この3つができていれば、「借金がある自分はだめだ」と思う必要はありません。

お金の不安をもう少し広く整理したい場合は「20代のお金の不安|「将来が怖い」の正体を分解する」も参考にしてください。


よくある質問

奨学金返済中でもNISAなどの積立投資を始めていいですか?

始めること自体は禁止されていませんが、順番があります。まず毎月の返還額を確実に払える状態にし、急な出費に備える生活費の予備を用意すること。そのうえで、自分の奨学金の利率(確定したコスト)と、元本保証のない投資をどう比べるかを考えます。判断に迷う場合は、ファイナンシャルプランナーなど専門家への相談も選択肢です。

繰上返還に手数料はかかりますか?

日本学生支援機構(JASSO)の案内では、登録している振替口座からの振替で繰り上げる場合は手数料がかかりません(払込票を使う場合は払込手数料が別途かかります)。全額でも一部でも繰り上げられ、第二種奨学金は繰り上げた期間の利子がかかりません。

返済が苦しくなったらどうすればいい?

延滞する前に、JASSOの減額返還制度(月々の返還額を2分の1などに減らして期間を延ばす)や返還期限猶予(一定期間返還を先送りする)を確認してください。どちらも返す総額が減る制度ではありませんが、延滞が3か月以上続くと個人信用情報機関に登録されるため、その前に手続きすることが大切です。

減額返還や返還期限猶予は、年収いくらまで使えますか?

JASSOの目安では、給与所得者の場合、減額返還は年間収入金額400万円以下、経済困難を理由とする一般猶予は年間収入金額300万円以下が基準です(減額返還は扶養する子どもの人数で変わります)。なお令和7年12月以降に卒業・退学した人の猶予は、収入証明の要らない「新卒等」の事由で申請します。基準は改定されることがあるので、申請前に必ず公式サイトで最新の条件を確認してください。

会社が奨学金を返してくれる制度があると聞きました。

JASSOには、企業等が従業員に代わって奨学金の返還残額の一部または全額を直接送金する「代理返還」の仕組みがあり、導入企業はJASSOのサイトで検索できます。今の勤務先に制度があるか、転職先を選ぶときの条件の1つとして確認する価値があります。

まとめ

  • 判断の起点は「自分の利率」と「生活費の予備があるか」の2つ
  • 240万円・15年の架空モデルでは、利率1%の総利息は約18.5万円、3%では約58.3万円
  • 繰上返還は手数料なし(口座振替の場合)。ただし月々の額は下がらず、期間が短くなる
  • 毎月が苦しいなら減額返還、しばらく払えないなら返還期限猶予。延滞3か月以上で信用情報に登録される
  • 勤務先や転職先の「代理返還」も確認しておく

資産形成の全体の進め方は「20代から始める資産形成ロードマップ」で、社会人2年目に手取りが減って返済が苦しく感じる時期については「社会人2年目に手取りが減る理由」で扱っています。


出典


免責事項

本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品や投資手法を推奨するものではありません。試算はすべて架空の条件によるもので、実際の返還額・利息は契約内容によって異なります。制度の条件は改定されることがあるため、申請や返還方法の判断にあたっては日本学生支援機構の公式サイトで最新情報を確認し、必要に応じてファイナンシャルプランナーなどの専門家にご相談ください。