この記事では、有給休暇を申請するのが怖い・気まずいと感じている20代に向けて、年次有給休暇が法律上どういう位置づけなのかを整理します。
「有給を取ります」と言うのに、なぜか心拍数が上がる。申請フォームの「理由」欄で手が止まる。周りが誰も取っていないから、自分だけ取るのが後ろめたい。
この感覚は、あなたが弱いから起きているわけではありません。制度の側が「取りやすい形」になっていない職場が、まだ多いからです。
そして意外に思われるかもしれませんが、法律の建てつけは、あなたが思っているよりずっとあなたの側に寄っています。
まず、有給は「お願いして許してもらうもの」ではない
年次有給休暇は、労働基準法39条で定められた労働者の権利です。厚生労働省の解説は、この権利の性質をかなりはっきりと書いています。
労働者が指定した具体的な月日が年休付与日となり、分割するか、又は何日継続するかも、原則として労働者が決定でき、使用者の承認は必要ではありません (厚生労働省「確かめよう労働条件」年次有給休暇)
ここは読み飛ばしやすいところですが、実務の感覚とはかなり違います。多くの職場では「申請 → 上司が承認 → 取得」という流れになっているので、承認がゲートだと思い込みがちです。
しかし法律上は、労働者が日を指定した時点で効果が生まれ、会社側にできるのは後述する「日をずらしてもらう」ことだけです。
さらに労基法の附則136条は、年休を取った労働者に不利益な取扱いをすることを禁止しています。評価を下げる、賞与を減らす、といった扱いは想定されていません。
「理由」を書けない自分を責めなくていい
申請書に理由欄があると、多くの人はここで詰まります。「私用のため」でいいのか、旅行と書いていいのか、通院と書けば通りやすいのか。
前提として、年休をどう使うかは労働者の自由です。休暇の目的によって取得の可否が変わる制度にはなっていません。
このことは判例の側からも見えます。弘前電報電話局事件(最高裁 昭和62年7月10日)では、代わりの勤務者を配置することが可能なのに、休暇の目的を理由にその配慮をせず時季変更権を行使することは許されないと示されています。
つまり「何のために休むか」で扱いを変えることは、法の想定するところではありません。
とはいえ、慣習として理由欄がある職場は現実に多くあります。そこで消耗しないための現実的な線引きはこうです。
- 書きたくないなら「私用」で足りる(具体的な予定を明かす義務はない)
- 理由を詳しく書くのは、通りやすくするための任意の工夫であって義務ではない
- 理由を聞かれてうまく答えられない自分を、意志が弱いと解釈しない
「言いたくないことを言わずに休む」は、わがままではなく制度の想定内です。
会社ができるのは「取り消し」ではなく「日をずらす」だけ
有給を申請して渋られたとき、多くの人は「断られた=取れない」と受け取ります。ここが一番の誤解ポイントです。
会社に認められているのは時季変更権、つまり「その日は事業の正常な運営を妨げるので、別の日にしてほしい」と求める権利だけです。休暇そのものを消す権限ではありません。
そして「事業の正常な運営を妨げる」かどうかは、雰囲気で決まるものではないとされています。厚生労働省の解説では、判断は労働者が所属する事業場を基準に、個別的・具体的・客観的に行われるとされ、例として挙がっているのは次のような状況です。
- 年末など特に業務が繁忙な時季にあたる
- 同じ時期に多数の人の申請が重なり、全員には与えられない
逆に言えば、「なんとなく人手が足りない気がする」「前例がない」は、ここに当てはまりません。
なお、退職時は事情が変わります。退職日をもって年休の権利は消滅するため、会社は時季変更権を行使しようがなく、残った有給の消化を認めるほかないと解説されています。退職前にまとめて使うことは、制度上まっとうな行為です。
「誰も取っていない」は、あなたではなく会社の問題
周りが取らないから取りにくい。これは20代がいちばん引っかかるところだと思います。
ここで知っておくと少し楽になるのが、2019年の法改正です。働き方改革関連法により、年10日以上の年次有給休暇が与えられるすべての労働者について、会社は年5日を取得させる義務を負うことになりました(労基法39条7項)。
- 会社が労働者の希望を聴き、時季を指定して取らせる仕組み
- 違反には30万円以下の罰金という罰則がある
- 会社は労働者ごとの「年次有給休暇管理簿」を作り、3年間保存する義務がある
つまり、誰も取らせていない職場は、放置されているのではなく、是正すべき状態として法律が名指ししているということです。
実際の数字も動いています。厚生労働省「令和6年就労条件総合調査」では、年休の取得率は 65.3%、付与日数は 11日 で、1984年の調査以降で最大の取得率となりました。政府は「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(令和6年8月2日閣議決定)で、2028年までに取得率70%を目標に掲げています。
まだ十分ではありませんが、「取らないのが普通」だった時代の空気は、制度としては終わりつつあるということです。
それでも申請ボタンが押せないときの、現実的な順番
法律の話をしても、明日の朝いきなり楽になるわけではありません。心理的なハードルは制度とは別のところにあります。
現実的に効いた順番を挙げておきます。
1. 理由の解像度を下げる 「私用のため」で出す。詳しく書けば通るという発想を一度手放す。
2. 相談ではなく報告の形にする 「休んでもいいですか」ではなく「◯日に有給を取ります」。承認が要らない制度なので、言い方も本来はこちら側です。ただし職場の関係性は大切なので、繁忙期を避けるなどの配慮とセットで。
3. 半日・時間単位から始める 半日単位の年休は、就業規則等に定めがあれば認められています。時間単位年休も、労使協定があれば年5日の範囲内で使えます。丸一日が重いなら、ここから慣らす手があります。
4. 断られたときは「理由」を聞く 時季変更権は、事業の正常な運営を妨げる具体的な事情が要ります。「なぜこの日は難しいのか」を聞くのは、対立ではなく確認です。
5. どうしても通らないなら外に相談する 各都道府県の労働局・労働基準監督署には総合労働相談コーナーがあります。会社の中だけで抱え込む必要はありません。
それは「休みたい」ではなく「消耗している」かもしれない
最後に、少しだけ別の角度から。
有給を申請するだけでこれほど緊張するとき、問題が休暇そのものではないことがあります。この職場では自分の都合を主張していい、と思えていない。その感覚のほうが、じつは重い荷物です。
同じ状態は他の場面にも出ます。体調が悪くても言い出せない、無理な依頼を断れない、自分の担当でない仕事まで抱え込む。有給はその氷山の一角として現れているだけかもしれません。
もしそう感じたら、頑張っているのに報われないと感じるときや職場で自分の存在が見えていないと感じるときも、あわせて読んでみてください。
休むことに理由が要らないのと同じで、しんどいと感じることにも理由は要りません。
キャリアの話として、仕事でミスばかりして落ち込む20代へと退職後の手続きチェックリスト|国保・年金・税金・失業給付の期限と窓もあわせてどうぞ。
よくある質問
Q. 有給は何日で消えますか? A. 年休の権利は労働基準法115条により2年で時効消滅すると解されています。就業規則で「翌年度に繰り越さない」と定めても、その定めによって権利が消えるわけではないと厚生労働省は解説しています。
Q. 入社して何か月で有給がもらえますか? A. 雇入れの日から6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に10労働日が与えられます。その後は勤続年数に応じて加算され、上限は20日です。週の所定労働日数が少ない場合は比例付与になります。
Q. アルバイトやパートでも有給はありますか? A. あります。所定労働日数が通常の労働者より少ない場合は、日数が比例して付与される仕組み(比例付与)が定められています。
Q. 有給を取ったら評価が下がりませんか? A. 労基法附則136条は、年休を取得した労働者に対する不利益な取扱いを禁止しています。実際に不利益な扱いを受けた場合は、労働局の総合労働相談コーナーなどに相談できます。
参考
- 厚生労働省「確かめよう労働条件|年次有給休暇」
- 厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」
- 労働政策研究・研修機構「早わかり グラフでみる長期労働統計」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の労働問題に対する法的助言ではありません。 ※制度の詳細や最新の内容は、厚生労働省・各都道府県労働局の公式情報をご確認ください。 ※個別の事情については、労働基準監督署・総合労働相談コーナー・弁護士等の専門家にご相談ください。
