転職サイトのアプリを開いて、閉じて、また開いた。深夜12時、布団の中でそれを3回繰り返した。求人を眺めながら、結局何もしないままスマホを置く。そんな夜が、何度あったかわからない。

「転職しようかな」と思い始めてから、もう1年が経っていた。

その間、転職サイトに登録して、いくつかの求人を眺めて、エージェントに連絡しかけて、やっぱり閉じた。また半年が経って、また登録した。同じことを繰り返していた。

「決断できない自分が弱いのかな」と思っていた時期がある。でもたぶん、それは違う。


転職に踏み切れない本当の理由——「比べるものがない」状態とは

転職を迷っている人の多くは、意志が弱いんじゃない。「今の会社」と比べるべき「別の会社」が、まだ頭の中に存在していないんだと思う。

今の仕事の嫌なところははっきり見えている。毎日の残業、成長している感覚のなさ、上司との関係。それはリアルな解像度で感じている。

でも転職先の「良さ」は、求人票の言葉でしか知らない。「風通しの良い職場」「裁量を持って働ける」「成長できる環境」——それが実際どういう感触なのかは、入ってみないとわからない。

比べようとしても、片方はリアルで、もう片方は想像上のものだ。リアルと想像を天秤にかけても、どちらが重いかはわからない。だから「迷っている」状態が続く。これは意志の弱さじゃなくて、そもそも比較できる情報が揃っていないということだと思う。


「転職したい」の中身が、実はバラバラだったりする

もうひとつ気づいたことがある。

「転職したい」という気持ちの中に、実はいくつかの全然違う希望が混在していることがある。

  • 「今の職場から逃げたい」
  • 「もっと給料が欲しい」
  • 「やりたいことをやりたい」
  • 「環境を変えたら、気持ちが変わるかも」

これが全部まとめて「転職したい」になっている場合、整理しないと動けない。

動機 転職以外でも解決できる可能性
今の職場から逃げたい 部署異動・上司への相談・働き方の変更
給料を上げたい 社内交渉・資格取得・副業
やりたいことがある その仕事ができる会社を具体的に調べる
環境をリセットしたい 職場環境が変われば解決するかを確認

逃げたいだけなら、転職以外の方法(部署異動・働き方を変えるなど)で解決するかもしれない。給料を上げたいだけなら、今の会社で交渉する方が早い場合もある。やりたいことがある場合、そもそもそのやりたいことがどの会社に行けばできるのかを考えないといけない。

「転職」という答えが先にあって、問いが後からついてくる状態では、迷いが深まるのは当然だと思う。


「転職しない」とも決めていない宙ぶらりんの消耗

これが一番しんどい状態な気がする。

「転職する」と決めていない。でも「転職しない」とも決めていない。

この宙ぶらりんの状態は、思っている以上に消耗する。毎朝、今の会社に行くたびに「これでいいのか」という感覚がうっすらとある。でも転職に向けて動いてもいない。どちらでもない状態が、じわじわと体力と気力を削っていく。

僕はこの状態のときが、一番しんどかった。転職について考える気力も、転職を諦める決断をする気力も、どちらも持てない。宙に浮いたまま時間だけが過ぎていく感覚は、迷っているというより、消耗し続けているという感じに近かった。

転職の話をしているようで、実は「今の会社を続けることを、自分が腹を決めていない」という問題だったりする。


転職の迷いを断ち切る——「答えを出す」より「問いを絞る」

「転職するかしないか」という大きな問いに向き合い続けると、ずっと迷う。

そうじゃなくて、もっと小さい問いに分解してみることが、意外と有効だった。

問い直しの3ステップ

  1. 「何が嫌なのか」を正確に書き出す——「仕事がつらい」ではなく、具体的に何がつらいのかを箇条書きにする
  2. 「今の会社では変えられないか」を検証する——嫌な理由が環境・上司・業務内容のどれか分類し、異動や交渉で変わる余地があるか確認する
  3. 「転職して変わること・変わらないこと」を仮定する——転職先に行っても持ち越す問題(自分のスキルや習慣など)と、環境が変わって解決するものを分ける

実際に紙に書き出してみたとき、初めて自分が何に悩んでいるのかがわかった気がした。「転職したい」と思っていた理由の大半が、職場環境への不満で、仕事の中身への不満はそれほどでもなかった。そのことに気づくまで、1年かかった。

最終的な答えは出ないかもしれない。でも「何がわかっていて、何がわかっていないのか」は少しはっきりしてくる。それだけで、少しだけ楽になる気がする。


よくある質問

Q. 転職を迷い続けるのは意志が弱いから?

意志の弱さではなく、「今の職場(リアル)」と「転職先(想像)」を対等に比較できていない状態が原因です。比べるものが揃っていないのだから、決断できないのは当然です。まずは情報の非対称を認識することが第一歩です。

Q. 転職の迷いを解消するにはどうすればいい?

「転職するかしないか」という大きな問いを、「何が嫌なのか」「それは今の会社で変えられるか」「転職して変わること・変わらないことは何か」と小さく分解するのが有効です。紙に書き出すことで、迷いの正体が見えてきます。

Q. 転職しない、と決める方法は?

「転職しない」と決めるのも、ひとつの能動的な選択です。「なぜ続けるのか」を言語化できれば、宙ぶらりんの消耗状態を抜け出せます。現職の何を変えれば満足できるかを具体的にリスト化するところから始めてみてください。なお、労働条件の確認や交渉の進め方については、社内の人事窓口や公共の労働相談機関に問い合わせることも有効です。

Q. 転職したい気持ちと現職への迷いが混在するときは?

「転職したい」という気持ちの中に、逃げ・給料・やりたいこと・環境リセット願望など複数の動機が混在していることが多いです。それぞれを書き出して分離し、転職以外で解決できるものと、転職でしか解決できないものを整理すると判断しやすくなります。


「迷い続けているのは、決断力がないからじゃない。まだ問いが大きすぎるんだと思う。」

そう言い聞かせながら、今日もまた求人票を眺めている。

転職するかどうかより、「自分が何を大切にしているか」を少しずつ言語化していく方が、先に進める気がする。答えはその後についてくるのかもしれない。